【番外編】過保護な医者に、今度は未来まで守られてます
外来の帰り道、病院を出た雪乃は、ほんのり秋の香りが混じる風にスカートの裾を揺らしながら歩いていた。

「……そういえば、クリームチーズまだあったかな」

駅前のスーパーに立ち寄り、かごを片手に食材を選び始める。
手に取ったのはクリームチーズ、生クリーム、卵、そしてバター。思いつくままに、甘い予感が広がっていく。

(頑張ったご褒美に、何か作ろう)
(ついでに、大雅先生の分も……あの人、甘いもの好きだし)

そう思いながら、帰路につく頃には、紙袋がほんのり重く感じられた。

家に着いて、エプロンを身につける。
オーブンを温めながら、手際よく材料を混ぜていく。
静かなキッチンに、泡立て器の音と、バターが溶けるやわらかな香りが広がった。

「ふふ、なかなかいい出来になりそう……」

卵液を流し込んだ型をトントンと軽く机に打ちつけ、空気を抜く。
あとは焼くだけ――そう思いながら、オーブンに入れた瞬間、背後で「ただいまー」と大雅の声がした。

「おかえり。今日はね、チーズケーキ」

振り返った雪乃に、大雅がちょっと驚いたような、でも嬉しそうな笑顔を見せる。

「お、やった。やっぱり俺、今日運がいいわ」

「リハビリ頑張ったご褒美なんだから、食べすぎ禁止ね」

「はいはい、“お姫様”の言うとおりにします」

オーブンの中でふくらんでいくケーキをふたり並んで見つめながら、
日常の静かな温度が、そっと部屋の空気に溶けていく。
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