【番外編】過保護な医者に、今度は未来まで守られてます
「いやあ……雪乃さん、すごいよ。ほんとに」

リハビリの最終チェックが終わったあと、滝川先生はカルテを閉じて、じっと雪乃を見つめた。

「脅威的な回復力って、こういうのを言うんだろうね。医学的に見ても、回復過程に無駄がない。むしろ……もう、学会出せるレベルだよ」

肩をすくめながらも、その目は本気の称賛で満ちている。

「心リハってね、結構地道な道のりなんだけど……よくぞここまで。大したもんだ。ほんとに」

そう言いながら、隣に立つ大雅に視線を送り、静かにうなずく。

「――あなたも、いい顔してるじゃない。やっぱり支えって、重要だな」

大雅は少し照れたように笑い、何も言わずに雪乃を見つめる。

そんなふたりの様子に、滝川はニヤリと笑ってから、軽くため息をついた。

「……ったく、最近は循環器病棟で“王子様と姫様”って噂になってるからな。ま、否定はしないけど」

「えぇぇ!? それ誰が言い出したんですか!」と雪乃が思わず吹き出すと、大雅がすかさず「小泉さんかもな」とぼそり。

「まさか……!」と雪乃が苦笑する中、ふっと息をついて、

「でもね……先生。正直、病気になる前より健康な気がするんです」

そう言った雪乃の顔は、少しはにかんで、それでいてまっすぐだった。

滝川はしばし驚いたように彼女を見つめ、そして、ふっと笑った。

「……うん、それ、たぶん本当だよ」

「本当、ですか?」

「うん。病気って、心臓だけじゃなくて、心とか生活とか、いろんなものに影響する。でも今のあなたは――全部が前より強くなってる」

そして、からかうように付け足す。

「……まぁ、王子様のおかげかもな?」

「ちょ、またそれ言うんですか!」

と、笑いながらも少し赤くなった雪乃に、滝川はいつものおどけた調子でウィンクしてみせた。

「お疲れさま、伝説の患者さん」
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