【番外編】過保護な医者に、今度は未来まで守られてます
その夜。夕食を終えた後、リビングのソファに並んで座っていた雪乃は、そっと横目で大雅を見た。

テレビの音は流れているけれど、お互いの意識はそちらには向いていない。

「ねぇ、大雅」
「ん?」
「……今日ね、『きくの』で、さえ子さんに言われたの。健一さんの不動産会社で、事務の人が辞めちゃって。よかったら話聞いてみないかって」

大雅は手にしていたカップをテーブルに戻し、ゆっくり雪乃の方を向いた。

「……フルタイム?」
「うん。週5日、正社員のフルタイム。多分、9時から17時とか、そんな感じだと思うけど」
「……そっか」

大雅は一瞬黙って、少しだけ眉を寄せた。
雪乃も少し緊張しながら、大雅の反応を待つ。

「……無理はしてほしくないけど、雪乃が『やってみたい』って思えるなら、それはすごくいい話だと思う。……でも、週5のフルタイムか。ちょっと心配だな」

「正直、私も少し怖い。けど、体は元気だし……大丈夫かなって」
「うん。雪乃のことは信じてる。でも、一応……滝川先生にも相談してみよう? 主治医の判断も聞いておいた方が安心でしょ」

「……うん、そうだね」

ぽつりと頷いた雪乃の手を、大雅はそっと包み込んだ。
「俺もちゃんと支えるから。何かあったら、すぐ言ってよ。……お姫様待遇は終わったけど、王子様業務は継続中だからね」
「ふふ、じゃあ契約更新でお願いします」
「有給とってでも迎えに行くよ」
「ほんとに?」
「その代わり……朝寝坊は厳禁な」

ふたりの笑い声が、穏やかな夜の部屋にやさしく響いた。
春の訪れとともに、新しい日常がまた、静かに始まりつつあった。
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