【番外編】過保護な医者に、今度は未来まで守られてます
初夏の陽射しがまぶしくなり始めた午後。
病院の外来フロアは、冷房の効いた空気に包まれていた。

検査と心エコーを終え、診察室のドアが開く。
滝川が手招きするように微笑みながら、椅子を指差した。

「はい、どうぞ。――お、今日は揃って来てくれたんだね」

「ちょうど休みが合ったので」と大雅が言い、雪乃は小さく頷いて微笑む。

滝川は手元のモニターに視線を落としながら、すぐに本題へと入った。

「うん、経過は非常に良好。あと少しで術後一年になるね。ここまでの回復、本当に見事だと思うよ」

そう言って、滝川は一瞬、雪乃と大雅のほうを見て、ふっと目元を緩める。

「ただね、検診の頻度についてはそろそろ少しずつ間隔を空けていけるかなとは思うけど――雪乃さんの場合、感染性心内膜炎の既往があるから、“もう何もしなくていい”ってわけにはいかない」

診察室に、言葉の重みが静かに落ちる。

「最低でも、半年から一年に一回は心エコーを取っておいたほうがいい。心臓の状態を把握しておくのは、とても大事なこと」

雪乃は真剣に聞き入りながら、そっと大雅の膝に手を置いた。
大雅もまた、無言で滝川の話に耳を傾けている。

「……それから、今日はちょうどふたり一緒に来てくれたからね」

滝川は表情を引き締めて、しっかりと二人を見据えた。

「将来的に、雪乃さんが妊娠や出産を考えるなら、心臓の状態を今以上に慎重に見ていく必要があります。
その時は、こちらから産科とも連携して、万全の体制を整えます」

 ふたりの間に一瞬、静かな空気が流れる。

大雅はそっと雪乃の手を握りながら、真剣な顔で滝川に頷いた。

「……それが、一般の人と少し違うところだと思ってください」

滝川の声はあくまでも落ち着いていたが、その芯には医師としての責任と配慮があった。

「もちろん、不安なことがあったら、僕でも、神崎先生でも、いつでも連絡をください。
電話でも、外来でも、LINEでも、何でもいい。ね?」

穏やかに、しかし確かな声で滝川がそう言うと、雪乃は胸に広がる安心感とともに、小さく「はい」と答えた。

「……いいですか?」

滝川の問いかけに、ふたり同時に頷く。

診察室の窓の外には、真新しい緑が風に揺れていた。
未来に続く道を歩いていくための、小さな節目の時間だった。
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