氷壁エリートの夜の顔
 私と結城さんは顔を見合わせる。
 お互い、「知っていたら棲み分けたのに」という顔をしていた。

「咲ちゃん、颯真くんは2週間くらい前から通ってくれてるの。もうお昼の常連さんたちともすっかり仲良しでね」

 ……常連さんたちと仲良し? あの無表情で会話ストッパーな氷壁エリートが?

 混乱したまま、私は注文を聞く。彼はビールと焼き魚定食、それからだし巻き卵を頼んだ。
 京花さんが厨房に下がり、私がビールをジョッキに注いでいると、カウンターの向こうで声が聞こえてきた。

「……仕事のことを考えずに、ただ美味しいものを食べられる店、近所で見つけてラッキーって思ってたのに……。まさか、『進捗の確認は私がー』が脳裏に蘇るとは」

 明らかに私に向けた独り言だ。私はグラスの泡を整えながら、わざと明るく応じた。

「あら偶然。私もどこからか声が聞こえた気がしたんです。『要点だけで結構、グラフの解析は俺がー』って」
< 22 / 206 >

この作品をシェア

pagetop