ステラクリマの匣庭ー貴方が読むまで、終わらない物語ー

IV.星の夜明け

“匣庭”は、崩れていた。

透明なドームは砕け、星の光は沈黙し、時の流れが戻り始めていた。
彼らが閉じ込めた世界――永遠の夜――は、もはや保たれなかった。

 

ルカは立っていた。血に濡れた手、焦げた足。
だが、背筋は伸びていた。瞳はまっすぐ、空を見つめていた。

 

星たちは、地に伏していた。

アリオトの腕は燃え、ドゥーベの喉は裂け、メラクの脚は砕かれ、ミザールの眼差しは空ろに、メグレズは言葉を喪い、フェクダはただノートを握りしめていた。

 

彼らは、愛の名のもとに星の彼女を殺そうとした。

それでも、誰一人、彼女を呪わなかった。
ただ、こう願っていた。

「どうか、君が幸せでありますように」

 

ルカはゆっくりと、空に手を伸ばした。
もう誰も引き留めない。
もう誰も、彼女を囲わない。

 

七夕の夜は終わった。
だが、星の“心”はまだ彼女の中にある。
それは彼らがくれたものであり、彼らが奪い、彼女が取り戻したすべてだった。

 

――天が開く。

ほんのわずかに、夜が割れ、黎明の色が滲んでいく。

 

「……僕たちを置いて行けるの?」

メグレズが、途切れた声で言った。
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