サルビアの育てかた
 でもどんなに眺めていたって、兄はこちらに目もくれない。
 物心ついたときから、なぜか無視され続けている。本当はもっとお話したいし、仲良くなりたい。だけどどういうわけか「話しかけるな」というオーラでいつも避けられちゃう。
 でもね、毎日のようにクールなダンスを見ていたら私だって我慢できなくなるんだよ?
 だから今日こそは、勇気を振り絞って話しかけてみよう。

 深く息を吸ってから、胸をドキドキさせながらも思いきって声をかけた。

「ねえ、ヒルス」 

 私の声が届いたのか、兄の動きが一瞬止まった。面倒臭そうな顔をしつつもこちらに身体を向ける。イヤホンを耳から外し、低い声で短く返事をした。

「……なんだよ」

 あ。機嫌が悪そう。でも話はしてくれるみたい。
 遠慮がちに、けれどもできるだけ明るい声を兄に向ける。

「あのさ、ヒルスって踊るの上手だよね」
「ああ? お前くらいの歳からずっと踊ってきたからな。それがどうかしたか」

 返事をするのも億劫そうな兄に、私は構わず続ける。

「よかったらさ、私にダンスを教えてほしいな」
「はあ……? なんでだよ、嫌だよ」
「いいでしょ? 私も踊ってみたい!」
「俺は誰かにダンスを教えられるような立場じゃないんだ」
「ずるい、自分だけ格好よく踊れて」

 頬を膨らませて眉を潜める私を見ながら、兄は肩をすくめる。そして、思いがけない提案をしてくれたの。

「だったら父さんたちに相談してみろよ。お前もダンススクールに行けばいいんじゃないか」
「ヒルスの通っているところ?」

 思いがけず、声が弾んだ。そんなこと考えもしなかったから。
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