サルビアの育てかた


 
 あれは私がまだ八歳のときで、兄の態度が素っ気なかった頃の話。  

 雲ひとつない青空が広がる朝。グリマルディ家の穏やかな日常が流れる。
 私はキッチンの窓から差し込む光を浴びながら、朝食後のホットティーで身体をあたためた。
 このまったりしたひとときが好き。
 兄の──ヒルスのクールな姿を堪能できる唯一の時間だから。

 いつものように家のガーデンでテンポを刻む彼の姿が、窓越しからチラリと見えた。

「またヒルスが踊ってる」

 ホットティーを飲み干したあと、私は半開きの窓からこっそりと様子を伺う。
 お母さんが育てている色とりどりの花たちが飾られた、綺麗なガーデン。花壇に植えられた真っ赤な花たちは、全身に浴びたばかりの水を綺麗に反射させる。
 花たちが見守る中心で、兄はダンスの練習をしていた。イヤホンを耳に当てながら、音楽に乗ってリズムを刻み続ける。

 兄は特徴的なつり目をしていて、踊るときはいつも真剣な眼差しだ。金のミディアムヘアから流れる汗が、太陽の光を受けてキラキラと輝く。
 兄妹なのに見た目が全然違うの。私は黒いロングヘアで、瞳はグレーに近い黒色。だから兄みたいな金髪や綺麗な瞳の色に憧れがあった。

 だけど──単に見た目が好きなだけじゃない。
 力強くステップを踏み、地に手をついて全身をダイナミックに回転させる兄の舞いは迫力満点。

「格好いいなぁ」

 私は自然とそう口にしていた。
 七歳も年上の兄は、八歳の私にとっては大人で、格好よくて、リスペクトしている相手だった。
 私もあんな風に踊れたらいいのに……いつもそんなことを思っていた。

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