サルビアの育てかた
 とある小さな公園前に車を停める。

 こんな自分に項垂れた。車内は暖房をつけているはずなのに、身体の震えが止まらない。

 公園を囲む石の塀に、一匹の黒猫が歩いている。瞳孔を大きくして目を光らせ、こっちをじっと見つめてくるんだ。ひょいと車のボンネットに乗ると、そのまま座り込んでしまった。黒猫も、小刻みに身体を震わせている。

「そんなところに乗るなよ……」

 お前は哀れだな。どうしたって暖は取れないのに。
 心の中でそうぼやいた。

 黒猫を眺めていると、俺はふと過去のことを思い出した。あれはたしか──レイがまだ六歳くらいのときか。
 家のガーデンで、レイが一匹の仔猫を見つけたことがあったんだ。

『おにいちゃん、みて。このこ、いたそうだよ』

 俺はダンス練習していたのを一旦中断し、レイの抱えてきた猫を見た。茶色い虎のような模様をした小さな猫だった。ぐったりしていて、弱々しい声で鳴いていたんだ。

『はこのなかで、ひとりぼっちだったの。レイたちの、かぞくにしてあげたいな』

 明らかに捨てられた仔猫だった。しかも、毛がボサボサで身体中は傷だらけ。骨と皮しかないほど痩せ細り、どんな扱いをされていたのか想像するだけで胸が痛くなる。
 動物に詳しいわけではないが、仔猫の命はそう長くないと俺は悟っていた。

『レイ。生き物を育てるのは大変なんだぞ。戻してこいよ』
『でも、とってもさむそう。このこに、ごはんをあげたい』

 幼いレイは、まっすぐに俺を見てたしかにそう言った。

 仕方なく俺は仔猫を部屋の中へ連れていき、毛布に包んで暖炉のそばであたためてやった。
 何を与えたらいいのか分からず、とりあえず水を口元に運んでみた。だけど、仔猫は口を開けてくれない。それほど弱っていたのだろう。
< 103 / 847 >

この作品をシェア

pagetop