サルビアの育てかた
「まずい、急がないと」
『えっ?』
「ごめん、フレア。また連絡する」

 通話を終え、慌てて車のエンジンをかけた。

 背中がぞくぞくする。さっきから鳥肌も止まらない。でももう、他に当てがないんだ。

 ハンドルを握り、発車すると──先ほどの黒猫が塀の下で別の猫と睨み合っているのが目に入った。毛を逆立て威嚇し合い、まるでこの世の終わりだと言わんばかりの叫び声を上げていた。こんなにも寒い夜なのに威勢のいい猫たちだ。何をそんなに怒っているのか、怒り心頭になるほど守りたいものがあるのか。俺は冷ややかな目で眺めながら猫たちを素通りし、無我夢中でアクセルを踏み込んだ。

 もしも俺の予想が的中してしまったら。一体どんな態度を示せばいい? ライクとは決して仲は良くないが、もう十年以上の付き合いがある。数々の大会やイベントで同じステージに立ってダンスをしてきた仲間だ。
 けれどもし──裏切るような真似をしたら。レイを傷つけるようなことをしたら。相手が誰であろうと許してはならない。その気持ちだけは絶対に揺らぐことはないんだ。

 昼間と違い、夜中の道路は走る車の数が極端に少ない。可能な限り車を急がせる。なのになぜ、こんなにも遅く感じてしまうのだろう。しかもこういうときに限って何度も何度も赤信号にぶつかってしまう。

(早く、急げ、急ぐんだ!)

 これから起こり得る最悪の事態が頭の中を過ぎったとき、俺の脇からだらっと汗が流れ落ちた。
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