サルビアの育てかた


 独特なエンジン音を響かせる黒のスポーツカーは、車通りの少ない夜道をハイスピードで進んでいく。

「ライクさん、どこへ行くんですか?」
「着いてからのお楽しみだ」

 ライクさんは車を運転しながら、上機嫌でそう言うの。

 外の景色を見ると、全然知らない場所だった。繁華街から離れているのかな。レンガ造りの家々と小さい公園と、あとはちょっとしたカフェを見かけたくらいだ。街灯も少ないし、どこへ連れていかれるのか全く分からなかった。

 車内には過去にダンススクールで踊った馴染みのある曲が流れている。ライクさんなりに選曲に気を遣ってくれたのかも。思い入れのあるアップテンポの曲を聞く度に、汗を流しながら踊り続けてきた日々が甦る。

 秘密にしているけれど、本当は隠れて二年間一人でダンスは続けている。公園で、誰にも見つからないように。ダンス仲間にはもちろん、先生や両親にも──それにヒルスにさえ話していない。私がダンスを諦めきれていない、なんてことを知られたらきっとみんなにスクールに戻るよう説得される。
 期待を裏切るのは心苦しい。何があっても私がスクールに復帰することは絶対にないから。
 隣で運転するライクさんに気づかれないくらいの、小さなため息を吐いた。
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