サルビアの育てかた
 住宅街に入ると、ヒルスは突然車のスピードを落として道路脇に停車させた。

「どうしたの?」
「ちょっと休憩」

 シートベルトを外しながら、彼はふうと息を吐いた。目を合わせることもなく、しばらく無言の時間が流れる。

 どこからともなく、小鳥たちの囀りが朝の知らせを告げているが響き渡ってくる。少しずつ太陽が顔を出し、淡い光が私たちのいる空間を照らした。清々しいはずのこの時間が、今の私には何も感じられない。
 さっき起きた出来事を思い出すだけで、身体が小刻みに揺れてしまう。まだあの気持ち悪い手の感触が全身に残っているような気がした。

 ふと彼の方に視線を向けると、ヒルスも私を見てなんとも言えない表情を浮かべていた。
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