サルビアの育てかた
「自分の家がどこなのか分からなくなっちゃって……」
「家が分からない? どういうことだ?」
「だって、私──」

 言いかけたところで、咄嗟に口を閉ざす。
 やっぱり『家族』でいたいから。何も知らないふりをして、グリマルディ家の娘としてこれからも生きていたいよ。

『だって私、一人だけ血の繋がらない子だから』

 こんな台詞、口に出すことなんて絶対にできない。
 顔が急に熱くなって、今にも涙腺が崩壊してしまいそうだ。
 ヒルスはこの上ないほどに眉を落としている。黙ったまま、そっと私の肩に触れた。

 そしてゆっくり、力強く、抱き締めてくれた──

 彼はいつだって私に安心と癒しをくれる。
 私が続きの言葉を口にできなくても、ヒルスは無理やり訊いてくるようなことはしてこない。

 たった今まであれこれ悩んで、気持ちがぐちゃぐちゃになっていたのに。さっきまで、男の人の体温が怖くてたまらなかったのに。他の誰でもない彼の抱擁だけが、私の全てを満たしてくれた。
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