サルビアの育てかた
「私……嫌って言えなかったよ……」

 切実な声で、呟いた。

「ライクさんに……嫌って言えなかった。急に怖くなって、声が出なくなったの。ヒルスにだけは……あんなところ見られたくなかった……!」

 色んな感情が入り交じって爆発してしまう。彼の胸の中でまるで小さな子供が喚くように、私は大声で泣き崩れた。

 この歳で家出なんて、危ないに決まっている。衝動的に行動して、今更後悔したって遅すぎる。判断の甘さが結局自分の心を痛めつけてしまった。それが分からないうちは、ヒルスの言うとおり私なんてまだまだ子供だよ。

 彼はそのまま私のことを、息が苦しくなりそうなほどに強く抱き締めてくれた。
 心地のよいぬくもりが伝わってきて、辛さなんてものがどこかへ吹き飛んでいく。

「これで、分かったよな? もう二度と……馬鹿な真似はするなよ?」
「……うん」
「レイがいないと、俺は……不安で不安で頭がおかしくなりそうだったんだ。もしものことがあったら、傷つくのはお前だけじゃないんだからな?」

 その言葉に、私の悲しみが少しずつ消えていく。彼の腕から離れ、ヒルスの綺麗な瞳をじっと見つめる。

 ──兄なんかじゃない。

 いつも胸の奥を悩ませていたこのモヤモヤがなんなのか。この気持ちが一体なんだったのか。私が初めて気づいた瞬間。
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