サルビアの育てかた
「ほら、突っ立ってないで。入るぞ」

 ヒルスは私の手を引いて、ゆっくりと家のドアを開けた。ルームフレグランスの甘い香りがフワッと鼻をつつく。
 たくさんの家族写真が並べられた、アンティークな棚が目に写る。小さい頃からの思い出が、私たちを出迎えているようだ。
 見慣れた玄関からの眺め。大切で大好きで、私が私として育ってきた場所。

 知らず知らずのうちに、いつもの言葉を自然と口に出していた。

「ただいま」

 すると、リビングから父と母が玄関まで駆け寄ってきた。二人とも本当に疲れた顔をしている。
 そんな父と母の姿を見た瞬間、自分でも驚くほど心が安らいだ。

「……レイ」

 母は私の姿を確認した瞬間、大きく目を見開いた。

「……あなた、一体何を考えているのよ!」

 頬を涙で濡らしながら、母は私に向かって声を荒げた。こんなにも激しい言葉を口にする母の姿を私は今までに一度たりとも見たことがない。これまでどんなに私が反抗しても決して感情に任せて怒鳴ったりしなかった母が、この上ないほどに顔を真っ赤にしている。

「電話にも出ない、メッセージも返さない、どこで何をしているか分からない。近所の人にもお友だちにもスクールやスタジオの先生たちにも、色んな人に迷惑をかけて! どれだけあなたを心配していたか分かっているの⁉」
「……お母さん……ごめんなさい……」

 母を、怒らせてしまった。当然だ。こんなに心配かけたから。謝っても許してもらえないに決まってる。

 普段は優しい母に叱られ、悲しさと嬉しさ、切なさと喜び、相反する感情が私の中で絡み合い、今の気持ちを表す言葉がどうしても見つからない。

「でもね」

 母は一度深呼吸してから、いつものまろやかな声に戻っていく。私の目の前に立つと、ゆっくりしっかりと抱き締めてくれた。

「でも、安心したわ」
「えっ……」
「レイが無事に帰ってきて、安心したの」
「……本当に?」
「あなたは、わたしたちの大事な娘だもの」

 母からのたったひとつの言葉に、私の中で嬉しさが膨れ上がっていく。
 目頭が熱くなる。涙が勝手に流れてきてどうしようもない。

「お母さん……私が帰ってきてホッとしてるの……?」
「何言ってるの。当たり前でしょう」
「当たり前、なの……?」

 声が震えてしまった。

 そっか……不安にならなくていいんだ。母はいつだって、私を受け入れてくれるじゃない。こんなこと、ずっと前から分かっていたはずだったのに。
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