サルビアの育てかた


 それは、ヒルスが二歳前後の頃。母──セナのお腹の中に、新しい命が宿った。
 妊娠したことが本当に嬉しくて、セナはすぐさま夫のアイルにも伝えたのだ。
 それを聞いたアイルも、ヒルスを授かったときのように大喜びだった。

「家族がもう一人増えるんだな! 身体を冷やさないようにしないと。今日はもう休んで」
「大丈夫よ。夕食の準備がまだ終わってないわ」
「それくらいやるから、とにかく横になるんだ」
「ヒルスの面倒も見ないと」
「おれがおんぶしながら料理する。ほら、体調を崩したら大変だろう?」
「ふふふ。あなた、そんなに神経質にならなくてもいいのよ」

 アイルは頑な人だ。ヒルスを妊娠したときも彼はセナの身体を気遣い、尽くしてくれた。
 仕事から帰ってきたら毎日家事に取り組み、ヒルスの世話をし、セナの身体を労った。少々心配性ではあるとは思う。

 だがセナは、そんなアイルからの愛をいつも素直に受け止めていた。

「あなたもお仕事で疲れているでしょう? 無理しなくてもいいのよ」
「いや。父親として、夫として、当然のことをするまでだ」

 アイルはそう言って、お腹をそっと撫でてからセナにキスをした。
 
「──ヒルス、あなたはこれからお兄ちゃんになるのね」

 まだ言葉があまり喋れないヒルスに、セナはそう声をかけた。新しい家族ができたことを理解していたのか定かではないが、ヒルスはよくアイルの真似をしてセナのお腹を撫でるようになったのだ。

「あなたはきっと、優しいお兄ちゃんになるわね……」

 ヒルスがお腹を優しく撫でてくる度に、セナは胸が熱くなる。
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