サルビアの育てかた
「ミセス・グリマルディ。どうぞ」
「はい」

 診察室へ入り、まずはいつものように問診を受ける。

「やあ。調子はどう?」

 主治医はベテランの男の先生で、気さくな人だ。ヒルスを生んだときもお世話になった。

「とても調子がいいです」
「うん。体調もよさそうですね。食欲はどうかな」
「あります。最近、食べ過ぎなくらいです」
「ははは。それは結構! 一時期つわりが辛そうだったから心配していたけれど。逆に食べ過ぎて体重オーバーしないでね?」
「はい、これからも気をつけます」

 それから検診台に横たわるよう促される。
 セナはゆっくりと横になり、服を捲って大きくなったお腹を先生に見てもらう。ジェルを塗られてそっとエコーを当てられた。

「ベビーは今日も元気かなー」

 画面に白黒の映像が映し出され、先生は慣れた手つきで機器を滑らせていく。

「寝ているのかな? 今日はずいぶん大人しいね」

 セナは画面に釘づけになる。正直説明をされないとどこがどこだかよく分からないが、たしかにお腹の中には我が子がいる。そう実感させてくれるから、姿を見るだけで楽しかった。

「うーん……? ちょっと、詳しく調べようか」

 先生の声が途端に小さくなった。 
 いつもならまず最初に心臓を確認してから顔を探してくれる。起きていれば口を動かしている姿をリアルタイムで見られたりするから、それも楽しみのひとつなのだが……。
 なぜか、先生の口数が減っていった。

 どうしたんだろう? セナはこのとき言い様のない違和感を覚える。

「先生、どうですか? この子、ちゃんと大きくなっています?」
「ううん……ちょっと、待って下さいね……」

 これからどんなことを言われるかなんて、想像もできなかった。ただ、先生の様子がいつもと違うのは明白だった。顔も見せてくれない。どのくらいの大きさまで成長しているとか、そういう話もない。心臓だって映してくれなかった──いや、実際は違う。そのとき先生が一番見ていたのは、心臓部分だったのかもしれない。
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