サルビアの育てかた
 診察台から椅子に座るようセナに促すと、先生はとても神妙な面持ちを浮かべた。

「あの、先生……何かあったんですか?」

 異常事態があったのだと、さすがに勘づいていた。しかし、最悪なことを考えたくはない。胸が張り裂けそうになるほど、心臓が爆音を鳴らす。

「お腹の子に何か異常でも? 病気、などですか? 無事に生まれてきますよね……?」

 恐る恐る問いかけるセナに向かって、先生は口角を一切上げずに目を見つめてきた。

「ひとつ聞きたいのですが、最後に胎動を感じたのはいつでしょう?」
「ええっと、今日はまだ一度も。たしか昨日は、あったと思うのですが。すみません、お腹が大きくなると感じにくくなるのであまり気にしていませんでした」
「そうですか」

 深く息を吸ってから、先生は意を決したように続きの言葉を述べた。

「いいですか、ミセス・グリマルディ。落ち着いて聞いて下さい。今、いつもより長めにエコーを当ててみました。心臓を詳しく見ていたのです。心音も聞こうとしたのですが……」
「……はい」
「どうしても聞こえません。心臓が動いている様子も、ないのです」
「え……?」
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