サルビアの育てかた
 その日のレッスンを終えて家に帰ると、リビングではしゃぐレイの姿があった。どうやら、スクールで使う練習用の衣装を着て喜んでいるようだ。

「ヒルス、おかえり!」
「……ああ」
「見て見て、似合う?」

 衣装と言っても、動きやすさや吸汗性重視で至ってシンプルなものだ。胸元に『Smith's dance school』とワンポイントがあるだけなので、似合うも何もない。
 強いて言うなら──

「少し大きいな」
「えっ?」
「お前が着られているように見える」

 小柄なレイには、サイズが一番小さい服でも大きすぎるようだ。
 俺のそんな感想に、レイは頬を膨らませて後ろを振り向く。

「私だって、もう少しお姉さんになったらきっと背も伸びるよ!」
「お姉さんになるまでダンスを続けられるといいな」

 皮肉を言われた張本人は「ヒルスよりも大きくなってみせる!」と言いながら、衣装を持って自室へと去っていった。
 他の同級生と比べてみても、レイは圧倒的に背が小さい。そんな奴が一体何を言っているんだ。

 内心呆れながら俺はキッチンへ向かい、紅茶を淹れてホッと一息吐く。
 あいつはまだ八歳だから。俺に比べて全然ガキだから。そのときのテンションで盛り上がっているだけだ。一年後には他のことに目を向けているんだろう。俺はそう思っていた。

 思っていたが──
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