サルビアの育てかた
 ──その後、どうにか家へ帰ったのだが、何をする気も起きずに放心状態になった。
 リビングのソファに腰かけ、先ほどの出来事が頭の中で回転し続ける。これは、夢なのではないかと疑った。ひたすら無音で時が過ぎるだけだ。

 灯りも点けないまま夜を迎え、やがて仕事を終えたアイルが帰宅してきた。闇に包まれるリビングでソファに座るセナの存在に気づき、アイルは大きく目を見開く。

「ど、どうしたんだ、セナ……真っ暗じゃないか」

 吃りながらも、アイルは部屋の灯りを点けた。

「あなた、おかえりなさい」
「ああ……。ヒルスはどうした?」
「ジェイクのところにいるわ」
「検診は終わったんだろう。迎えに行かないのか」
「……そうね。行かないと」

 無表情のまま立ち上がるが、おぼつかない足でよろけてしまった。
 アイルはすぐさまセナを両手で支え、それから優しく抱き締めた。

「……何かあったのか?」

 眉を八の字にしながらアイルはじっと見つめてくる。

 そんな顔をしないで。

 余計に悲しくなってしまう。
 セナは無理に微笑んで見せた。

「なんでもないわよ」
「そんなわけない。体調が悪いのか?」
「そうじゃないの。身体は大丈夫」
「どうしてそんな悲しい顔をしているんだ」
「あら、そんな顔してた……?」

 アイルは決して、目を逸らすことはしない。

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