サルビアの育てかた
 ベッドの中で身を丸め、私は未だに震えを抑えることができずにいる。きっと朝まで眠れない。

 一人で項垂れていると、手に持っていた携帯電話が突然着信音を鳴り響かせる。驚いて画面を確認した。コールしてくれた相手の名前を見て、胸の鼓動が早くなるの。

 通話ボタンを押し、どうにか声だけは震えないように口を開いた。

「ヒルス……」
『……レイ?』

 大好きな人の名前を呼べば、すぐに答えてくれる。たったそれだけのことなのに、思わず泣きそうになってしまう。

『……どうしたんだ?』

 掠れていて、寝ぼけているような声。でもいつもの優しさが伝わってきて、私の心があたたかくなる。

「ごめんね、こんな時間に……」
『声が震えているぞ。大丈夫か』

 まずい。バレちゃった。心配させたくないから、元気なふりをしたかったのに。

「大丈夫だよ」
『こんな時間に電話してきて、泣きそうな声をしてる。平気なわけない』
「ううん。何でもないよ」
『レイ。俺には分かるから。……またあの夢を見たんだな』
「……」

 どう返事をしたらいいのか分からなくて、私は口を閉ざす。
 彼は私が夜に魘されていたとき、いつも支えてくれた。
 今だってそう。ヒルスの声を聞いただけで、ちょっとだけ癒されたの。

『強がるなよ』
「うん……」
『少しの間、そのままでいろ』

 慌ただしくそう言うと、彼は一方的に通話を切ってしまった。

 いつもとは違う彼の行動に、一気に虚しさが私の胸の奥を埋めていく。もう少し、お話ししたかったな。だけどヒルスは明日も仕事があるよね? ちゃんと寝ないといけないもんね。電話して、悪かったなあ。
 頑張って寝よう。悪夢なんかに負けないで。いつまでも怯えていると子供のままだ。
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