サルビアの育てかた
 無理に目を閉じてみるけれど、たちまちあの光景が瞼の裏に映る。一瞬でも悪魔のことを思い出すと、私の身体は酷く震えた。
 やっぱりダメ。怖くて身体も強張ってしまう。
 忘れなきゃ。忘れなきゃ。思い出してはいけない。別のことを考えて、恐怖なんて忘れるの。
 そう思っていても、どうしても無理だった。

 孤独の中、どれほどの時間が過ぎたか分からない。身体は疲れているのに、どうしても瞼を閉じることができず、私はずっと布団の中で唸っていた。

「レイ」

 そのとき、ふと彼の声が聞こえた。
 私、おかしくなってるの……? 気を紛らわせようとして、幻聴のようなものが聞こえているみたい。

「おい、レイ」

 ほら。また聞こえる。すぐそばに、まるで本当に彼がいるかのように。

「大丈夫か?」

 私のことを心配しているような声と同時に、誰かに布団を軽く叩かれた。

「え……?」

 驚き、恐る恐る布団の中から顔を出す。目の前にいた人を見た瞬間、声を上げてしまった。

「ヒルス……!」

 暗がりの中でたしかに彼が、ヒルスが、私の目の前に立っていた。
 彼に会えた喜びで、勢いよく抱きついた。
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