サルビアの育てかた
 ベッドに横になり、彼の方を向きながら私は瞳をゆっくりと閉じる。目の前にはもう何も現れない。感じるのは、微かに聞こえるヒルスの吐息と仄かに香る彼のにおい。

「ありがとう、ヒルス……」
「いいよ、気にするな」

 そう言って彼は、私の右手をそっと握ってくれる。さっきまで冷たかった彼の手は、ほんのりあたたかくなっていた。
 長い間まとわりついて私を苦しめてきた悪夢を、いつの間にか追い払うことができたみたい。
 もうきっと怖くない。
 ありがとう、ヒルスのおかげだよ。

 その後、私はいつの間にか眠っていたようだ。
 翌朝目覚めると既にヒルスの姿はなくなっていたけれど、彼が握っていた私の右手に微かにぬくもりが残っていた。
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