サルビアの育てかた
 先生は珍しく真顔だ。こちらをしっかり見つめながら私の肩にそっと手を添える。

「うちのスタッフが、君に酷いことをしてしまった。本当に申し訳なかったね……」
「えっ」

 なぜジャスティン先生が謝罪するの?

「やめてください。先生は何も悪くないですから」
「いいや。僕は経営者であり、彼の雇用主でもあるんだ。彼のしてしまったことは僕の責任でもある。どうお詫びしていいか」

 いつもキラキラしている笑顔がどこにもない。こんなにも精のない先生を見るのは初めてだった。

 私に謝るべき人は先生じゃない。それはきっと誰もが分かっているはず。だけど自らの下で働くインストラクターが大変なことをしてしまったという事実に、先生はきっと責任の重さを感じているんだよね。
 これだけ色んな人に悲しい想いをさせてしまったライクさん(あの人)に、私はこれからも失望し続ける。そして当然の報いなのかもしれないけれど、あの人は二度とスクールにもスタジオにも足を踏み入れることはできなくなった。自分の欲望に負けた人の末路はあまりにも失うものが多いんだね……。

「先生、いいんですよ。謝られても困っちゃいます」
「……君は相変わらず優しい子だね。こんな僕を許してくれるのかい?」
「許すも何も。ジャスティン先生は悪いことをしていないですから」

 先生は何か思いつめたように口を閉ざす。
 そしてまたいつもの明るい笑顔に戻った。けれど、どことなく先生の瞳は切ない。

「うん、そうだね……ちょっとずつ、前を向かないといけないよね……」

 ジャスティン先生はいつも前向きだよ。私がダンススクールへ通っていた頃も元気に指導してくれて、明るい笑顔がとても眩しい人だった。先生のポジティブな姿に、私は元気をもらっていたんだよ。
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