サルビアの育てかた
 俺のそんなちっぽけな願いが届いたのか。練習場のドアが開く音が響いた。
 地獄のこの空間から助け出してくれたのは──いつも何かとタイミングが良いジャスティン先生だった。今日もバッチリ固められたオールバックスタイルのブラウンヘアを輝かせながらスタジオへ入ってくる。

「二人とも、おはよう」
「ジャスティン先生、おはようございます」

 大きめの声で挨拶をすると、俺は先生の前にサッと立った。

「ヒルス、今日もよろしくね」

 先生はいつもと変わらない様子だ。
 でも俺には、生徒たちが来る前に話したいことがある。

「ジャスティン先生。少しだけ、お話してもよろしいでしょうか」
「奇遇だね。僕も君に話したいことがあるんだよ。休憩室に行こうか」
「はい」

 顔には出さずとも、先生も昨日レイと話したことがショックだったらしい。声がいつもより暗く感じたんだ。
 ストレッチを終えたフレアは、後から来たインストラクターたちと話し始めた。練習場にはいつもと変わらぬ雰囲気が戻っている。
 密かに胸を撫で下ろし、俺は先生と二人でその場を後にした。
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