サルビアの育てかた
 ──さて、仕事中は余計なことは考えないようにしなければ。俺はその日、生徒たちにいつも以上の熱い指導をする。
 数時間のレッスンが終わるとそそくさと帰り支度を済ませ、すぐさまスタジオを出ようとした。

「ヒルス、お疲れ様」
「ああフレア。お疲れ。また明日な」

 今日はフレアとも帰り際に立ち話などしない。気まずいから無理だ。それに、大事なホームワークもあるんだ。逃げるように、俺はさっさと家路についた。
 
 帰宅後、俺は家で一人夕食を黙々と食べながら考えた。レイをスクールに復帰させる作戦を。

 話し合いだけじゃ戻ってきてくれない。言葉がダメなら身体で説得するしかないか?
 わざとレイの視界に入るところで俺が踊ってアピールするか。実家に帰ったとき、ガーデンで一日中踊ってみるのもいいな。
 それか、ダンスイベントに誘ってみるのもどうだ。今度知り合いのダンサーが出るイベントもあるしな……。会場が湧いてるのを見ればレイだって踊りたくなるかもしれない。

 あれこれ考えてみるものの、心の底では「こんなことでレイがやる気になるならとっくにダンススクールへ戻っているはずだ」と、虚しいながらもそう思ってしまう。
 食事中も、後片付けのときも、シャワーを浴びるときも、ひたすら頭を巡らせた。
 だが、ちっともいいアイディアが思いつかない。夜が更けても、俺はソファに腰かけながらああでもないこうでもない、と頭を働かせる。

 時間も忘れて考え込んでいくうちに、俺は毛布もかけずにそのままソファで眠ってしまっていた。
< 183 / 847 >

この作品をシェア

pagetop