サルビアの育てかた
翌朝。
ふと目を覚ますと、真冬の部屋の中は震えるほど冷たくなっていた。
力を入れて上体を起こそうとすると──自分の身体に、とんでもないほどの違和感を覚える。異常な寒気と頭痛。そして顔の周辺が熱くてたまらない。咳と鼻水まで出てきてしまう。
これは……。
やらかした。熱を測ってみると三十八度以上もあるではないか。基本的に風邪症状がある状態ではダンススタジオへ行くことはできない。
俺は悔しくてもう一度立ち上がろうとする。しかし、目の前がふらっとしてしまい、まともに歩けない。
最悪だ。今日もレッスンがあるのに。
体調不良を理由に仕事を休んだことなど、これまでに一度足りともない。午後から出勤なのでそれまでに熱が下がらないか、という考えが過る。が、スタジオのみんなに風邪を移してしまったらそれこそ大変だ。
少し間を置いてから、泣く泣くジャスティン先生に連絡を入れる。
携帯電話を手に取ってコールすると、先生はすぐに出てくれた。
『ハイ、ヒルス。朝早くにどうしたんだい』
「……先生、おはようございます」
『おや。声が枯れているけど、大丈夫?』
「熱が出てしまいました。頭がクラクラして寒気も酷いんです」
『君が体調崩すなんて珍しいね。いいよ、ゆっくり休んでよ!』
「すみません。今日もレッスンがあるのに……」
『心配しないで。代わりのイントラをつけるからさ。元気になったらまた連絡してよ!』
「はい、ありがとうございます」
心身ともに弱り気味の今の俺にとって、ジャスティン先生の優しさが身に染みる。
突発的に休んでしまい、悪いことをしたな……。
通話を終え、天井をぼんやり眺めた。
喉が異様にカラカラだ。飲み物は水くらいしかない。紅茶を淹れる気力すらないな。それよりも、汗が止まらないからスポーツドリンクが欲しい。
しんとした部屋で、俺の吐息だけが響き渡る。
一人暮らしをしてから、初めて熱を出した。どうしようもない寂しさが俺の心を襲ってくる。
こんなとき一番に思い浮かべるのは──やはりレイの顔なんだ。