サルビアの育てかた


 充実した毎日だった。間違いなく、ダンスを始めたおかげで。
 スクールでは色んなジャンルを教えてもらえるけど、私が一番夢中になったのは「ガールズヒップホップ」。女の子らしい可愛い動きや、大人っぽいムーヴで踊ることもある。

 イベントに参加するときは露出が多い衣装を着るメンバーもいるんだけど──私だけは違う。服に関してはいつも胸元を隠してる。ダンスのときだけじゃなくて、普段もそう。
 身体の一部に、他の人には見られたくないものがあるから……。
 衣装は限られた種類しか着ない代わりに、もっとたくさん練習して綺麗に踊れるようになりたい。みんなに素敵だなって思ってもらえるようなダンスを披露したいの。

 ──そういう想いもあって、休みの日でもよく自主練習するようになった。ヒルスと一緒に家のガーデンで汗を流しながら、スクールで教えてもらった技を何度も繰り返し練習する。

「レイ」
「なに?」
「いい踊りをするようになったな」
「えっ」

 私の目を見つめながら、ヒルスは突然そんなことを口にした。
 思いがけない言葉に、胸がドキッとする。

「もしかして……褒めてくれてる?」
「いや。そんなんじゃない」
「嬉しいなぁ。ねぇ、もっと褒めてよ」
「だから違うって」

 ヒルスは目を逸らし、それから何も言わなくなってしまった。
 私が調子に乗ると、すぐ冷たくされちゃう。

 以前に比べて、ちょっとは仲良くなれたと思ったんだけどな。まだまだ距離があるみたい。
 ダンスが上手くなれば、私のことを認めてくれるかな? もっともっと頑張らなきゃ。
 今日は曇り空で、小雨が降ってきそうな雰囲気だった。

 みっちり練習を終えたあとは、シャワーを浴びるのが日課。

「お前、先に汗流して来いよ」
「うん、お先!」

 ヒルスも全身びっしょりのはずなのに、毎回譲ってくれる。お言葉に甘えて、私はすぐさまシャワールームへと駆け込んだ。
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