サルビアの育てかた
 ──癒しのひとときは、ここで一旦終わりを告げる。
 その後レイに見送られながら、俺は一人ダンススタジオへ向かった。
 フラットを出ると、冷たい風が俺の体温を一気に奪っていった。相変わらず肌が痛くなるほどの寒さだ。
 まだ熱は下がったばかりで変に脱力感がある。しかも病欠の後の出勤日は妙に緊張してしまう。特にフレアとジャスティン先生には迷惑をかけたからな……。

 スタジオに到着し、重い足取りで中へ入る。更衣室で着替えをしていると、スタジオの仲間たちがやって来た。

「よう、ヒルス」
「もう良くなったか?」
「体調不良なんて珍しいから心配したぞ」
「無理すんなよ」
「ああ。心配かけて悪かったな。もう平気だ」

 仲間たちの思いやりのある声かけに、俺の気持ちは少しばかり軽くなった。今日は昨日休んだ分、いつも以上に気合いを入れていかないとな。
 深呼吸をし、準備ができたので練習場へいざ足を向ける。

 ドアを開けて最初に目についたのは──フレアの後ろ姿だった。鏡に向かって黙々とストレッチをしている。鏡越しでふと目が合ってしまい、思わず逸らしたくなってしまった。が、ここはしっかりと話をしなければ。
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