サルビアの育てかた
 そこまで話し終えると優しい顔のまま、フレアは席を立った。

「今日はあの子のことを話してくれてありがとう。甘い紅茶も飲み終わったでしょう? もう帰りましょ」

 落ち着いた口調だったが、店を出ようとするフレアの後ろ姿だけはまだ寂しさが残っている気がした。
 それなのに俺は、いつものようについ甘えてしまうんだ。

「なぁ、フレア」
「うん?」
「今日からまた良い先輩後輩として、ダンス仲間として仲良くしてくれるか?」
 真剣な俺の問いに、フレアはふっと鼻で笑うんだ。
「そんなの聞くまでもないわよ。当たり前でしょ」

 夕陽が傾く町の中、俺たちは再びいつものように他愛ない会話をしながら帰路につく。

 ──今日話したことに、俺はひとつだけ隠していることがあった。それは、レイの出生時に起きた件だ。
 どんなに信用しているフレアであっても、たとえ他の誰であっても。俺はこの先、決してレイの「悲しい過去」を口にすることはない。
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