サルビアの育てかた
 ──本番後。控え室に戻る途中、会場内の廊下でヒルスが待ってくれていた。
 私は気分が高揚したまま、彼のそばへ駆けていく。

「ヒルス、今日も来てくれてありがとう」
「ジャスティン先生がお前に話があるみたいだぞ。だから一緒に来ただけだ」
「そうなの?」

 腕を組みながらヒルスは冷たい目をしている。だけど、口調は柔らかい気がした。

「ちゃんと見てくれてたよね」
「いや、別に」
「ヒルスのおかげでいつも頑張れるんだよ!」
「……俺のおかげ?」

 私が素直な気持ちを伝えると、ヒルスはちらっとこちらを見た。一瞬、頬が緩んだように見えたけれど、すぐにまた表情が固くなる。
 ふぅ、と小さく息を吐いてから、ヒルスは小さく口を開いた。

「まあ、今日のお前はよくやったな」
「え?」
「レイのダンスが一番輝いてた、と思う」
「……本当に?」

 思いもよらない言葉に、私は目を見張る。
 調子に乗っちゃうと、またすぐにつれない態度を取られる。分かってる。分かってはいるんだけど……。

「嬉しい!」

 こんなサプライズな言葉を受け取って、冷静でいられるわけがない。

「ヒルス、私のこと認めてくれたんだね!」

 人目も憚らず、勢い余ってヒルスに抱きついた。身長差がありすぎて胸に顔を埋める形になっちゃった。だけど喜びに溢れている私の腕は、ヒルスを放す気になんてならない。

「お、おい。なんだよ、そんなに喜ぶか?」
「だって私、ヒルスに憧れてダンスを始めたんだよ! 褒められたんだから嬉しいに決まってる!」
「俺が憧れ、だと……?」

 ヒルスの心臓の音が伝わってきた。鼓動がすごく早くなってる。
 もしかして照れてるのかな?
 そんな反応も可愛い、と思ってしまった。

「分かった、分かったから……そろそろ放してくれ」

 困ったような声でヒルスはそっと私の両腕から離れていく。
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