サルビアの育てかた
 ヒルスは私が指差す方向に目を向けて、顔を綻ばせた。

「可愛い。あのアヒルたち、あたため合っているのかな?」
「ああ……この時期は寒いからな」
「仲良しなんだね」
「そうだな」

 水鳥たちの前を通りすぎると、ヒルスは自分のスカーフをそっと私の首元に巻いてきた。ふんわりと、彼の香りに包まれてドキッとする。

「あれ、どうしたの」
「寒いだろ?」
「うん。それならヒルスも……」
「俺は全然平気」

 とか言いながら、ヒルスはぶるっと身体を震わせた。タートルネックを着ていても、見るからに寒そう。
 いつもヒルスはそうやって、優しくしてくれるんだから。自分のことは二の次で。

「また、風邪引いたら大変だよ?」
「そしたらもう一回レイに看病してもらう」
「そうじゃなくて」

 本気なのか冗談なのかよく分からない。でもヒルスは、目を逸らしつつも真顔だった。
 看病ならいつでもするよ。でも──
 私はそっと、彼の手に触れてみる。目を見開くヒルスを横目に、大きな手をギュッと握ってみせた。 

「お、おい。レイ……」

 狼狽えるヒルスを前に、私は平静を装う。本当は心臓が早鐘を打って大変なのにね。

「さっき、霊園でも繋いでくれたでしょう?」
「それは……案内するつもりで」
「だったら今もいいよね。私たち『仲良し兄妹』だし」
「えっ」

 ヒルスはそこで、声が低くなった。

 あれ? 私、何か変なこと言ったかな……。

 手を放す様子もないし、気にしない。
 彼の指先と絡み合う手があたたかさに包まれていく。

「二人でダンススクールに通っていたとき、クラスのみんなに言われてたでしょ? 仲良し兄妹だって。覚えてない?」
「いや、覚えてるよ……。よく、覚えてる」
「あのアヒルたちみたいに仲良く寄り添ってたら、寒いのなんて関係なくなるよね」
「そうだな……」

 自分で言っておいて、ちょっと無理があると感じた。

 十四歳の妹と七歳年上の兄が手を繋ぐのって、きっと普通じゃない。こんな光景を他人が見たら、まさか兄妹だなんて思わないだろう。
 分かってる。分かっているけれど、許されるならこのまま彼の手に触れていたい。
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