サルビアの育てかた
「レイ、おはよう」

 私が髪の毛を整えていると、母が声をかけてきた。

「お母さん。おはよう」

 鏡の向こうで母が穏やかな眼差しをこちらに向けている。

「レイ」
「なに?」
「最近……綺麗になったわね?」
「えっ、そう?」

 チークでピンク色だった私の頬が、たちまち真っ赤になっていくのが鏡に映った。

「メイク……してるから?」
「うーん。それもあるかもしれないけれど。でもなんだか、レイ自身が綺麗になったわよね」

 私は母の方を振り向いて、小首を傾げた。

「これは母の勘だけど──もしかしてレイは、誰かに恋をしているわね?」
「えっ」

 私の全身がカッと熱く燃え上がる。
 恋。してる。たしかに、してる。でもその相手というのは……。

「お、お母さん。急に何言うの!」

 思わず顔を逸らす。いくらなんでも、この話題には触れてはいけない。
 もし私が、彼に──ヒルスに恋心を抱いてるって母に知られてしまったら、おかしなことになる。私は義理でも彼の妹だから。血の繋がった家族だって信じてる、どこにでもいる普通の娘だから。
 私があれこれ考えていても、母は変わらない朗らかな口調で続ける。

「いいのよ、レイ。そんなに照れなくても。あなたが好きになった人なら、どんな相手でも応援するわ。自分の気持ちに素直になりなさいね」

 母のその言葉が、私の胸に突き刺さる。

『ねえ、お母さん。私の好きな人、ヒルスだよ』

 こんな台詞を口にしたら、母はどんな反応をするんだろう。
 言えない。絶対に言えない。

 私が思い悩んでいると、母は「それじゃお仕事行ってくるわ。お父さんとお留守番よろしくね」
 にこやかにそう言って家を後にした。
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