サルビアの育てかた


 久しぶりにダンススクールでの仕事を終わらせ、生徒たちが帰った後に俺は一人で練習場の掃除を軽く始める。埃が付着した鏡を磨いていると、誰かが来る気配がした。

「ヒルス、久しぶり」

 鏡の向こう側で目が合ったのは──満面の笑みでこちらを見るメイリーだった。ロングの睫毛にカラーコンタクトが入った瞳は目力が強い。

「ああ、メイリーか」
「珍しいね、ヒルスがスクールの指導に来てるの」
「今日は一人欠勤が出たからな。ヘルプに来たんだ」

 数年前まではダンススクールのインストラクターが不足していて代替として月に何度か来ていたが、最近ではよほどのことがなければ指導には入らなくなった。スクールには初々しい生徒もたくさんいるので、新鮮な気持ちで仕事ができたりもする。

「まだ帰らないの?」
「掃除を終わらせてからだな。これもイントラの仕事だ」
「ふーん。ヒルスもすっかり先生の顔になったね。あたしも手伝う」
「いや、別にいいよ」

 俺がそう言ったにも関わらず、メイリーは構わず隣に立って掃除を手伝い始めた。
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