サルビアの育てかた
 他愛のない話をしているところでメイリーは急に暗い声になり、若干語気を強めて俺に訊いてくるんだ。

「あのさ、ヒルス。あの子は……レイは最近どうしてるの?」
「どうって? 相変わらずだ。よく頑張ってるよ」
「……そう。先生から聞いたんだけど、この前、大きいイベントでソロを踊ったみたいね」
「そうだよ。あいつのダンスはどんどん磨きがかかっているからな。ファンだってみるみる増えているんだぞ」

 鏡に映る俺の顔は、これ以上ないほどに綻んでいる。

 一年前のあの日──二人でリミィの墓参りへ行った後、俺はレイにもう一度話をした。俺がレイの専属のコーチになるから、もう一度ステージに立って本格的にダンスをしようと。ダンススクールに拘る必要もない。スタジオや実家で、マンツーマンで俺が直々にダンスを教えるから。
 俺がそう説得すると彼女は目を細め、遂に首を縦に振ってくれたんだ。

 あの日のことは一年経った今でも鮮明に覚えている。レイがまたダンスの世界に戻ってきてくれたことが本当に嬉しかった。
 俺が頬を緩ませていると、メイリーはなぜだか面白くなさそうに不貞腐れたような態度を取る。

「いいわよね、レイは」
「何が?」
「だって、あの子はジャスティン先生のゲストとしてダンスイベントに参加させてもらっているし、個人大会にも出場してるんでしょう? スクールに籍を置いているわけじゃないのに。しかも、ヒルスがレイの専属コーチなのよね。先生のお弟子さんしかダンススタジオでの練習に参加できないはずなのに、あの子はヒルスのレッスンなら特別に許されているわ。こんなに優遇されてる子、今までにいなかったわよ」

 ノンストップで早口を並べると、メイリーは深くため息を吐く。
 メイリーは幼い頃から負けず嫌いで、闘争心がとにかく強い。特にレイには負けたくないのか、よく彼女に対して敵対心剥き出しでがむしゃらになっていたのを俺は何度も見ていた。残念だが、メイリーの性格は今でも変わらない。
 面倒臭いな、と思いつつも俺は無難に答える。

「別にレイだけじゃないだろ? お前だってこの前のイベントでセンターとソロを任されたし、大会にも連続で出場させてもらっている。お前のダンスはジャスティン先生だって買ってるよ」
「うん、それは分かってるわ。でも、ヒルスはどう思ってるの?」
「何が?」
「あたしのこと……あたしのダンス、どう思ってる?」
「いや、だから前から言ってる。メイリーだっていいダンスをするだろ」
「……本当に?」

 メイリーは手を止め、俺の方を向くとグッと顔を覗き込んでくる。
 ……なんだ? これ以外にどう言えばいいんだ?
 メイリーは眉を上げながら、俺の返答を待っているようだ。だけどいまいち答えが分からない。俺は続きの言葉が出てこず、思わず目を逸らした。
 いつも濃いめのメイクをするメイリーの眼力、ちょっと苦手なんだよな。 
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