サルビアの育てかた
『レイ?』
「……えっと。なに?」
『どうした? 聞こえているか?』
「あっ、うん。ごめん、なんの話だっけ?」
『だから、イベントのことだよ。レイもゲスト出演して、俺とペアダンスしようって』
「あ、ヒルスと一緒に? うん……楽しそう! 私も踊りたい」

 不自然なほど明るい声になってしまった。わざとらしすぎるよね、これじゃ。

『レイ、大丈夫か?』

 さすがにヒルスにバレてしまう。心配そうな声で問われ、私は小さく息を吐く。

「ごめんね。考え事しちゃって……」
『どうした? 何か悩んでいるのか?』
「うーん、ちょっとだけ、ね」
『俺でよければ聞くから。どうしたんだ』
「……」

 打ち明けるべきか悩んだ。この問題はヒルスにも関係する。
 だからこそ、電話じゃなくて顔をしっかり見てから相談したいと思った。

「ヒルス、今度のお休みにまた家に帰ってくる?」
『ああ、そのつもりだよ』
「それならそのときに、お話しするね」
『……そうか』

 一時、無言の時間が訪れた。いつもなら電話で会話が途切れることなんてない。変に気まずくしてしまい、申し訳ない気持ちになった。
 優しい彼は、それ以上無理に問い質すことはしないの。

『レイ』
「うん?」
『あまり悩みすぎるなよ。俺がついているからな』

 ヒルスの言葉に、私の胸が再び高鳴ってしまう。自然と口元が緩んだ。

「うん、ありがとう……」

 通話を終え、ベッドに横になりながらそっと目を閉じた。幸せな時間を過ごした後、いつもならすぐに眠れる。
 だけど今日は、今日だけは。なかなか寝つけなかった。昼間にあったあの出来事を、どうしても思い出してしまうから。
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