サルビアの育てかた
 ──それは、昼過ぎの出来事。仕事が休みだった父は、ランチを食べてからリビングのソファで昼寝をしていた。
 気持ち良さそうにいびきをかく父に、私はそっと毛布を掛けてあげた。

「お父さん、風邪引かないようにね」

 寝ているから返事はないと思いつつ、優しく声をかける。
 ガーデンでダンスの練習をしようと踵を返し、リビングを出ようとした。正にそのときだ。

「……リミィ」

 父が掠れた声でたしかにそう呟いたのが聞こえてきた。
 心臓がどくんと唸った。振り返ると──父はまだ寝ているみたい。

「びっくりした。寝言、だよね……?」
 
 毛布を握り締めながら眠る父を眺めていると、私は途端に切なくなる。

『あの子のことは一生忘れない。何があっても』

 ふと、あの言葉を思い出した。
 子を失った父の気持ちを考えると、私はいつだって胸が締めつけられる。

 父は、愛情をたくさん持っている人だから。失ってしまった娘のことをいつまでも想い続けているんだもの。それに何よりも──血が繋がっていない私のことさえも、大切にしてくれる。とんでもなく優しい人。
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