サルビアの育てかた
 しばらく父の寝る姿を眺めていた。すると突然父の瞼がパッと開き、バッチリと目が合う。
 目が虚ろでまだまだ眠そう。だけど私の顔をじっと見ると、なぜか驚いた表情になる。掠れた声で、父はこんなことを言い始めた──

「リミィ」
「えっ?」
「リミィか? 生きていたのか!」
「お父さん……?」

 真っ直ぐこちらを見つめる父は、たしかに私に向かってそう言っている。その表情はあまりに真剣で……。
 どう反応をしていいのか分からず、言葉が出なくなってしまう。

 それでも父は、満面の笑みで嬉しそうに続ける。

「大きくなったなあ。会いたかったよ、リミィ」
「……何、言ってるの?」

 違う、違うよ、お父さん。私、リミィじゃない。レイだよ。冗談で言ってるの?

 驚いた私は、父を残して外へ駆け出した。
 胸が苦しい。どういうことなの? 分からない。全然、分からない!

 ガーデンを通りすぎ、当てもなく走り続ける。近所にある丘に足を踏み入れ、坂道を上っていった。

 呼吸が上がる。胸が痛くて、頭が混乱して、おかしくなりそうだった。
 ダンスをして気を紛らわせようとしたけれど、リズムにも乗れずステップも上手く踏めず、まともに踊れなかった。
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