サルビアの育てかた
 たまらず俺はレイの隣に座り、そっと背中をさすった。

「そんなことがあったのか……」
「私、どうしたらいいか分からなくなっちゃって」

 レイは必死に目の中から溢れ出しそうになるものを抑え込んでいる。見るからに我慢してるんだ。

 ──たしかに言われてみれば、俺が泊まりにきたあの日も父は曜日が分かっていなかった。おかしいとは思ったが深く気にしなかった。
 でも、そうなのか。まさか、父がそんな事態になっていたなんて。
 
「辛かったよな。レイが一人で悩むようなことじゃない」
「うん、でも……聞いてくれて、少しだけ気持ちが軽くなったよ」

 レイは声をも小刻みに揺らしながら、無理して微笑んでいる。
 今まで彼女がどれだけ思い悩んでいたのか考えると、胸が痛くなる。

「きっと母さんだって気づいてるはずだ 。話はしたのか?」
「うん、少しだけ。だけどお母さんは、まだ認めたくないみたい。お父さんは病院が嫌いだし……」
「でもこのまま放置していたら、父さん自身がもっと辛くなるよな」

 肘をつき、俺は暫し思考を巡らせる。
 母の気持ちも分かる。父が昔から病院に行きたがらない性格だというのも知っている。だが話を聞く限り、事態をこのまま放置している場合ではない。
 正直、気が動転した。解決策なんかすぐに見つけ出せない。いきなり現れた大きな不安に心は乱れ、 胸が痛くなって 仕方がない。
 それでも、レイをこれ以上不安にさせてはいけないんだ。
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