サルビアの育てかた
「ねえ、ヒルス」
「ん?」
「寒いから手繋いだままでもいい?」

 そんな風にレイに言われてしまうと、急に恥ずかしくなる。

「な、なんでだよ」
「だってね、小さい頃お父さんと一緒に外を歩いたときはいつもこうやって手を繋いでもらったよ」

 幼い頃、父と近所などを散歩した思い出が甦る。レイと出会う前のことだ。辛い出来事があっても、父は俺にいつも優しく接してくれた。
 意図せず、目尻が熱くなる。

「俺も、覚えてる。懐かしいな」
「でしょ? ヒルスの手もお父さんみたいにあったかいよね。どんなに寒くたって、全然平気」 
「ああ……父さんの手はいつもあったかかったな……」

 彼女が笑っている。俺の手を強く握ってきて、嬉しいはずなのに──なんだか虚しくなった。

(俺は父さんの代わりにすぎないのか?)

 なぜかモヤモヤした。いや、ついさっきも自分の中で整理したはずだ。俺は義理でもレイの兄で、家族なんだ。こんなことで落ち込むのはおかしい。
 どうにか気持ちを抑え込む。

「仕方ない、少しだけだぞ……」

 ツンとした言いかたをしてしまったが、実際は心臓がバクバクして煩わしかった。なんだかんだでレイに甘えられると嬉しくなってしまう。
 本当に俺の感情は意味不明だ。あざとい妹に翻弄され、いちいち胸を高鳴らせる。兄として接していかなければいけないのに。

 手を繋いだまま、ゆったりした気分でレイと共に家に帰る。
 あれこれ考え込んでいるが、結局のところ俺は彼女と過ごす時間が好きだ。幸せ気分で自宅に戻り、玄関ドアを開けると──晴れやかな心が一気にどんより雲に変わってしまう事態が起きていた。
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