サルビアの育てかた
第三章
 母は夜な夜なリビングの電気を消したまま、ソファで蹲っていた。独り静かに肩を震わせ、悲哀する母の小さな後ろ姿に俺が気づいてしまったのは、父があの診断を受けてから数ヶ月後のことだ。
 父の病気を治す方法はない。薬で進行を遅らせることは可能だが、それでも日に日に症状は重くなっていく。
 食事を一日に何度も取ろうとするし、トイレの場所も分からなくなってしまった。自分でシャワーを浴びるのはもちろん困難で、着替えすら一人でできない。 

 日中はいつも笑顔で父に接している母だが、疲れがたまっているせいか毎日夕食を食べた後にリビングや寝室で仮眠を取るようになった。そして、夜になるとああやって静かに泣いているんだ。
 どう声をかけたらいいのか分からない。そっとしておいてあげるのが一番なのかもしれないと、俺はいつも気づかないふりをした。介護や身の回りの世話を手伝い、母の負担を減らすことしか俺にはできないんだ。
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