サルビアの育てかた
「二人共、頑張ってるわね」

 俺たちがガーデンで水分補給しながら休んでいると、キッチンの窓から顔を出して母が声をかけてきた。

「まあな。レイが初めてカポエラダンスを披露する大事なイベントなんだ。気合い入れていかないと。な、レイ?」
「うん。それに久しぶりにヒルスとのペアダンスだから、凄く楽しみなの」

 ニコニコしながらそう答えるレイを前に、俺は嬉しくなってしまう。きっとまた、幸せいっぱいの顔になっているのだろう。
 母は微笑ましそうにこちらを眺めた。

「あなたたちにはお父さんのことで苦労かけているものね……ごめんね」
「どうして謝るのお母さん」

 俺とレイは互いに顔を見合わせ、すぐに母の方を向いた。

「俺もレイも、家族として父さんを支えているだけだ」
「それでも大変でしょう。ダンスの練習もあるのに、介護もして……。もし負担になっていたら、二人共少しの間ヒルスの家にいてもいいのよ」

 たしかに父のことがあり、一年前と比べて練習時間はガクッと減ってしまった。
 母なりの気遣いだろう。それでも俺とレイは首を縦に振ることはない。

「だから気にするなよ、母さん」
「そうだよ。大変じゃないって言ったら嘘になるけど、一人で介護するよりみんなで協力すれば負担も減るよね。だから、これからもお父さんのお世話をしたいの。それにね……」

 レイは間を置いてから、何かを思い出すようにくすりと笑うんだ。

「お父さん見てると面白いよね。気づいたらいつも床で寝てるでしょ? それに、食べ終わったばかりの食器を見ながら『ごはんはまだか?』なんて言うし。未だに私とリミィを間違えることだってあるんだよ。内緒だけど、最近はそんなお父さんが可愛いなって思うの」

 そうやって、レイは楽しそうに語る。
 この言葉に母は目を細め、ガーデンまで出てくるとレイの手をゆっくりと握った。

「ありがとう……レイ」

 安心したような、少し肩の力が抜けたような声で母は呟く。

「俺もレイと同じ気持ちだから、母さんは何も心配するなよ」

 母は柔らかい表情を浮かべ、大きく頷いた。
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