サルビアの育てかた
 和やかなこの雰囲気の中。突然、家の中が騒々しくなった。

「何だこれは! ミルクが泡だらけだぞ! 母さん、母さん! 来てくれ!」

 キッチンからだ。どうやら父が起きたらしい。またも何かをやらかしているようだ。
 俺たちは急いで父の所へ駆ける。するとそこには──コンロの前で一人狼狽える父の姿があった。
 火が全開になっているせいで鍋の中のミルクが沸騰し、今にも溢れ出そうになっている。この状況の中、母は落ち着いてコンロの火を消す。

「お父さん、火傷はしてない? ホットミルクを作ろうとしたのね」 
「ホットミルク? そうだったかな」
「火を使うときは言って下さいね。一緒にあたためてあげますから」
「うーん」

 母と目も合わせることもなく、父は気のない返事をする。毛布を大切に抱えながらぼんやりしていた。
 たった今自分がしでかしたことも、ホットミルクを作ろうとしたことさえも忘れているのだろう。
 膜だらけになった熱々のミルクをカップに注ぎ、少し冷ましてから母がそれを渡そうとするが「いや。いらない」などと言って父は背を向けた。力なくキッチンから出ていく父の後ろ姿が小さく見えて仕方がない。
 母は何も言わずに、置いていかれたミルクを喉に流し込んだ。

 ──そのやり取りがあまりにも切ない。レイも俺も黙り込んでしまった。
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