サルビアの育てかた
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イベント前日。
夜が更けても、俺はなかなか眠れずにいた。
楽しみなんだ。明日、レイとのペアダンスをステージで披露できることが。
だがワクワクしているからって、ずっと起きているわけにはいかない。いつまでも興奮が冷めないからか、喉が渇いてしまう。
ベッドから起き上がり、そっと部屋のドアを開けた。既に真っ暗な家の中を静かに歩き、水でも一口飲もうとキッチンへ向かった。
するとそこには、何やら父が冷蔵庫の中をごそごそと漁っている姿が。
「父さん、何してるんだ?」
「母さんが起きてこないからな。朝ごはんがないんだよ」
時計に目をやると、時刻は夜の十二時を回ったところだ。
今が朝だと勘違いしているのか……。
俺は苦笑しながら頷いた。
「母さん、最近疲れてるみたいだからもう少し寝かせてあげて。これでも食べなよ」
棚に置いてあったりんごを見つけて、俺はそのひとつを父に手渡した。二口ほどかじると、父の手がピタリと止まる。
「ん……? なんだ、夜か。寝ないとな」
食べかけを持って寝室へ戻ろうとするので「それもらうよ」と言って父の手からりんごを受け取った。トボトボと立ち去ろうとする背中を見ると、俺は無性に切なくなる。
明日、俺とレイがダンスイベントに参加することも父は分かっていないだろう。いつもならイベントや大会前に、父は「明日は頑張ってこい」と声をかけてくれる。
ありふれた応援の言葉だが、それすらも言ってもらえなくなってしまった。俺の中で寂しさと虚しさが溢れ出る。