サルビアの育てかた
「なあ、父さん」

 呼び止めると、父はこちらを振り返る。

「明日、俺とレイでダンスイベントに参加するんだよ」
「そうだったのか? だったら見に行かないとなあ」

 明日は病院へ行くのに、忘れているんだな。だけど俺は何も指摘したりしない。

「ああ、来てくれよ。レイのカポエラダンス、本当に格好良いんだぜ」
「そうか。楽しみだな。お前がコーチだから、レイの踊りもどんどん上手くなっているんだな」
「……えっ」

 思いがけない父の言葉。
 いや、何でもない。大したことじゃない。けれども、今の父が俺の目をしっかりと見つめながら口にした台詞に、驚きを隠せなくなった。

「父さん……。俺がレイのコーチだってこと、覚えているのか?」
「何を言っているんだ? 当然だろう。いつもガーデンであんなに熱心にダンスを教えているじゃないか。お前は小さい頃から今まで、ダンス一筋で頑張ってきたな。本当にお前は【自慢の息子】だよ」

 はっきりとした、口調だった。
 俺は父からの言葉を受け取り、胸が熱くなった。目の前がぼやけて殆ど何も見えなくなる。感情が溢れてしまいそうになってどうしようもない。

「……父さん、ありがとうな」

 目から流れ出そうになるものを必死に抑え込み、俺は「おやすみ」と、父に背を向けて急いで自室へ戻った。
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