サルビアの育てかた
 一度ヒルスと別れ、会場の奥に進んでいくと他のダンサーたちを数人見かけた。ストレッチをしながら、みんな自分の出番を待っているようだ。関係者もたくさんいて、観客を迎える準備をしていた。久しぶりのこの雰囲気に、私の心が踊り始める。
 早くステージに上がってヒルスと思いっきりダンスを披露したい。自然と笑みが溢れた。

「レイ?」

 フレア先生が不思議そうに私の顔を覗き込む。
 あ……一人でニヤニヤしているのを見られちゃった。 
 けれどフレア先生は、ふと優しい笑みを浮かべるの。

「よかった。思っていたよりも元気そうね?」
「えっ」
「……ちょっと心配していたの。本当に、介護のことで大変そうだから」
 
 そう言いながらフレア先生は眉を潜める。

「ヒルスとたまに連絡を取って、話は聞いていたんだけどね。彼、いつも疲れたような声をしていたから気になっていたのよ」
「あ……そうなんですね」

 なぜだか、フレア先生のその話を聞いて胸がうずく。労ってくれているはずなのに、何か引っ掛かってしまう。この複雑な感情は何なんだろう……? 

「わたしね、彼の力になってあげたかったのよ」

 フレア先生は真剣な声で話を続ける。

「ヒルスが何かに悩んでいたり、大変なことがあれば助けてあげたいし支えていけたらいいなといつも思っていたわ。だから、ダンススタジオでもよく彼をサポートしていたの」
「はい、兄からそのことは聞いています」

 私はどうにか笑顔を保ちながら、フレア先生を見上げた。

 彼女の綺麗な長い髪が、歩く度上品に揺れる。ナチュラルなメイクで、横顔もきらやか。私なんかよりもずっと大人で、包容力がある。素敵な人だな……私は思わず、見惚れてしまう。
 こんな人がいつもスタジオでサポートしてくれているなんて、ヒルスは幸せだよね。彼が楽しそうにスタジオでの話をしていたことを思い出す。嬉しいはずなのに、やっぱり何かおかしい。私の胸が妙に締めつけられるから。
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