サルビアの育てかた
 どれだけ自分に言い聞かせていても、動揺を隠しきれない。

「……だけど、わたしじゃ無理なのよ」
「無理? 何がですか?」

 ついさっきまで元気いっぱいだったフレア先生が、急に静かになってしまった。

 会場の突き当たりまで歩いていく。下り階段に差し掛かると、フレア先生は一度足を止めて私の顔をじっと見つめた。

「スタジオで彼をサポートすることはできても、心を支えるのはわたしの役目じゃないの」

 フレア先生の表情は真剣だ。でもその瞳の奥は寂しさで埋め尽くされている。

「ヒルスを支えられるのはあなたしかいないから」
「えっ、私ですか……?」

 会場内はざわざわと人々の話し声が響いているのに、私とフレア先生の周りだけは妙に静まり返っている。
 私の身体は硬直したように動かない。何とも言えない感情が溢れてしまいそうになる。
 フレア先生はゆっくりと首を横に振った。

「あ、ごめんね。いきなり変な話をして。本番前なのに」
「いえ……」

 ふと微笑むと、フレア先生はそっと私の頭をひと撫でするの。

「安心して。わたしはあっさりフラれたから」
「えっ」
「キスもわたしから一方的にしただけよ。看病のために部屋に行ったあの日もね『レイが来るから大丈夫』ってヒルスに言われちゃって。追い出されたのよ」
「……そう、なんですか?」

 どうしてヒルスはそんなことを。私が来るからって、わざわざフレア先生にそんな風に言わなくてもよかったんじゃないかな。
 兄のことを想ってくれる人がいるのに。妹である私なんかが原因でおかしなことになってるの? これってよくない、よね。
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