サルビアの育てかた
「……ごめんなさい」

 思わず暗い声になってしまった。
 こんな私に対して、フレア先生は驚いた表情に変わる。

「どうしてレイが謝るの?」
「フレア先生のように素敵な女性が兄によくしてくれているのに、妹である私がいるせいで……」

 この先から、何を言えばいいのか分からなくなってしまった。言葉が濁ってしまう。

 ヒルスのことが大好きだからこそ、自分のこの気持ちを打ち明けてはいけない。これからもこの先も義理の兄妹という関係は続くから、私は自分の想いよりも彼の幸せを願いたい。
 それなのに、上手く伝えられなかった。

 けれどフレア先生はもう一度あたたかい笑みを浮かべるの。

「あまり深く考えないで。わたしは彼とどうこうなるつもりはないわ。ヒルスはレイのことしか見えていないみたいだからね」
「……えっ?」
「どんなに辛いことがあっても、彼にはあなたがいればきっと大丈夫よ」

 フレア先生は明るい声でそう言うと、私から背を向けた。でもその後ろ姿が私の目には寂しそうに映っていて。
 言葉が続かなかった。私はこれからも彼の妹として生きていくの。それがヒルスにとっての幸せなんだって分かっている。どんなにヒルスの言動にドキドキさせられても、家族以外の関係になりたいと思ってはダメ。

 ──私はあくまでも妹として彼を支えます。

 そう言おうとした。だけど、口を開く前に更衣室に到着してしまった。
 扉の前で足を止め、フレア先生は私の方に振り返る。

「ここで着替えてね。その後ステージ裏へ案内するわ。わたしはジャスティン先生と観客席で応援するから」
「……はい、ありがとうございます」

 このときのフレア先生の表情は、やっぱりどこか寂しさに包まれている気がした。
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