サルビアの育てかた
 念入りにストレッチをしていると、本番の時間はあっという間にやって来た。
 ステージのライトが照らされる前に、私はヒルスと共にそれぞれのポジションに立つ。
 隣でヒルスの呼吸音が微かに聞こえてきた。彼から伝わってくるダンサーとしての空気が、私の心を刺激する。
 会場中にアップテンポの音楽が流れると、私たち二人に眩しいライトが照らされた。その瞬間、ステージに向かってたくさんの歓声が上がるの。
 ここは、五千人近くもの観客が入る大きな会場だ。ほぼ満席状態だろうか、何千もの熱気は上昇していくばかりで止まることを知らない。

 私はヒルスと見つめ合い、世界的アーティストのクールな曲に乗ってテンポを刻み始めた。

 ヒルスのダンスは力強くていつ見ても物凄い迫力。特に身体を一回転してから脚を振りかざすアルマーダの舞は、まるで格闘家のようで破壊力抜群。
 私も続いて蹴り技を次々と決めていった。

 次のメロディで、私が最も習得するのに手こずったアクロバット技の振りが来る。

(大丈夫だ、レイならできる)

 ヒルスからの心の声が聞こえた気がした。綺麗な瞳で、私にそう訴えている。

(俺のマカコをしっかり見ていろよ)

 ヒルスはしゃがんだ状態から床に片手をつけ、脚を後ろへしなやかに振り上げた。まるで重力なんて存在していないかのように滑らかな動きで着地する。彼が連続でマカコの技を決めると、会場中は更に沸いた。見ている私まで魅了されてしまう。
< 290 / 847 >

この作品をシェア

pagetop