サルビアの育てかた
「先生、どうかしましたか?」
「いや、実はね──妻の母も昔、君たちのお父さんと同じだったんだ」
「え?」
「たまに思い出すんだよ。義母も、アルツハイマー病を患ってしまってね。僕は日頃お世話になっていた彼女を支えたいと思って、妻と共に介護を手伝いに行っていた時期があったんだ」

 俺は言葉を失った。ジャスティン先生はあまり自分のプライベートを話さないので、少し驚かされる。
 先生って、結婚していたのか……。
 色々と訊いてみたいことはあったが疑問を心にしまい込み、静かに先生の話に耳を傾ける。

「義母は夕方になると徘徊をするようになってね。気づいたときに家族や親戚が総出で捜し回るなんてことが何度もあったんだ」

 憂いある声で、先生は過去を語り続けていく。

「幾度となく彼女には『一人で外に出ないでほしい』とみんなでお願いをしたけど、言われたこともすぐ忘れてしまうからね……。徘徊癖が治ることはなかった。そして大雨が降るある日の夕方、彼女はまた一人でどこかへ行ってしまった。僕たちは急いで捜しに行ったけど……それ以来、義母が自分の足で家族のもとへ戻ってくることはなかったよ」

 先生のその話を聞いて、俺は胸の鼓動が一時高まる。

「先生、それって……」
「うん。彼女は道中、交通事故に遭ったんだ。次に会ったときは、まるで安らかに眠っているようだったよ」

 初めて聞かされる、ジャスティン先生の過去。どうしようもないほどに胸が痛む。先生が俺たちのことをここまで気にかけてくれるのは、単なる優しさだけじゃなかったんだ。先生自身の経験から生まれた想いもあったのだと気づかされる。
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